「愛猫が甲状腺機能亢進症と診断された。療法食をすすめられたけれど、食べてくれない」「市販のキャットフードで代わりになるものはないの?」この記事は、そんな飼い主さんに向けて書いています。
編集部は市販のプレミアムキャットフード5商品について、ヨウ素含有量の公表状況と、原材料への海藻類(ケルプ・昆布・海藻粉末)の使用を、公式サイトで1商品ずつ確認しました。
その結果、「低ヨウ素」と確認できる市販フードは1つもありませんでした。ヨウ素の数値を公表していたのは、5商品中わずか1商品です。
調査で分かったことと分からなかったことをそのまま載せたうえで、それでも市販フードを選ぶなら何を確認できるのかを整理しました。
なお、この記事に書くのは公表情報と編集部が確認した事実であり、診断や治療の助言ではありません。療法食を使うかどうか、市販フードで様子を見てよいかどうかは、必ずかかりつけの獣医師と決めてください。
目次
- まず確認したいこと|いま、食事で決めてよい段階ですか
- 療法食と市販キャットフードは、何がどう違うのか
- 市販キャットフードのヨウ素は、実際どうなっているのか【編集部調査】
- 甲状腺機能亢進症の猫の市販フードの選び方|「確認できること」で選ぶ
- 編集部調査を踏まえた市販キャットフードの紹介
- 甲状腺機能亢進症の猫が食べてはいけないもの・注意したいもの
- ちゅ〜る・おやつ・投薬用のちゅ〜るはどうする?
- 腎臓病を併発している場合|フードの優先順位は獣医師の判断領域
- 手作り食を考えている場合
- フードを切り替えるときに気をつけること
- 早期発見のためにできること
- よくある質問
- まとめ|「分からないまま選ぶ」のをやめることが、いちばんの対策
まず確認したいこと|いま、食事で決めてよい段階ですか
猫の甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気で、高齢の猫で最も一般的な内分泌疾患とされています。よく食べるのに痩せていく、水をよく飲む、落ち着きがなくなるといった変化で気づかれることが多い病気です。
治療には内服薬、外科手術、放射性ヨウ素治療、そして食事療法(ヨウ素制限食)という選択肢があり、どれを選ぶかは猫の状態や併発疾患によって変わります。食事だけで管理する病気ではありません。
フードの話に入る前に、ご自身がいまどの段階にいるかを確認してください。
獣医師から療法食(ヨウ素制限食)の指示が出ているなら、市販フードへの切り替えを自己判断で行わないでください。この記事は、療法食を続けられない事情を獣医師に相談するときの材料として使ってもらえます。
投薬治療が中心で、食事について特別な指示がない場合は、市販フードの選択は比較的自由です。それでも、後述する確認ポイント、つまりヨウ素の開示と海藻の有無を材料に、次の診察で相談することをおすすめします。
まだ受診していない、診断がついていないという段階なら、フード選びより先に、まず受診してください。高齢の猫の「食べるのに痩せる」は、この病気の典型的なサインとして知られています。
療法食と市販キャットフードは、何がどう違うのか
ヒルズ y/d|編集部が確認できた範囲で、国内唯一の甲状腺用療法食
甲状腺機能亢進症の食事管理用として設計された療法食は、編集部が確認した範囲では、ヒルズの「プリスクリプション・ダイエット y/d」だけでした(2026年8月時点)。
ヒルズの米国公式サイトの成分表示では、y/dドライのヨウ素は0.2ppm(乾物ベース)、缶タイプは0.1ppmと記載されています。単独給与を続けた場合に、3週間で甲状腺ホルモン(T4)の産生低下が示されたとの記載もあります。
ここで見落とせないのが、単独給与という条件です。ヒルズ公式は、おやつや他のペットのフード、味のついた薬などからヨウ素が入ると低ヨウ素設計の効果そのものが損なわれるため、y/dのみを与えるよう明記しています。この点は後半のおやつの章でも扱います。
y/dは動物病院での相談を前提とした食事療法食です。使う場合は必ず獣医師の指導のもとで始めてください。
ロイヤルカナンに甲状腺用の療法食はある?
「猫 甲状腺機能亢進症 ロイヤルカナン」と検索する方は一定数いるようです。ただ、ロイヤルカナン日本公式サイトの猫用食事療法食の一覧では、甲状腺機能亢進症を適応とする製品は確認できませんでした(2026年8月時点)。腎臓や消化器の療法食を使っている猫が甲状腺機能亢進症を併発した場合の考え方は、後述の「腎臓病を併発している場合」で扱います。
市販フードのヨウ素は、療法食とどれくらい違うのか
米国には、市販キャットフード112銘柄のヨウ素を実測した査読論文があります(2008〜2009年に購入した製品の調査)。ヨウ素濃度の中央値は3.5mg/kg(乾物ベース)でした。ただし範囲は0.2〜154.6mg/kgと銘柄によって数百倍の開きがあり、同じブランド内でも最大300倍を超える変動が報告されています。さらに、療法食を除く成猫用の74%は、旧NRC基準(1986年)の上限だった3mg/kgを超えていました。なお、現行のNRC基準に上限の規定はありません。
y/dの0.2ppm、つまり乾物ベースで0.2mg/kgと比べると、市販フードは中央値でも17倍以上です。市販フードで療法食なみの低ヨウ素を実現するという前提が、そもそも成立しないことをこの数字は示しています。
※この調査は米国で購入された製品のもので、日本で売られているフードの実測値ではありません。日本の市販フードを対象にした同様の公開調査は、編集部では確認できていません。だからこそ次の章で、日本で買える商品を1つずつ確認しました。
療法食を食べてくれないときに、まず試すこと
療法食を猫が食べてくれないというのは、実際によくある相談です。ヒルズ公式は、7日以上かけて今までのフードから徐々に移行すること、y/dはドライと缶(ウェット)を併用できることを案内しています。いきなり全量を置き換えるのではなく、時間をかけて割合を増やしていくのが基本です。
それでも食べない場合は、自己判断で市販フードに戻す前に獣医師へ相談してください。投薬治療への切り替えなど、食事以外の選択肢を検討できることがあります。
市販キャットフードのヨウ素は、実際どうなっているのか【編集部調査】
調べ方|そもそもヨウ素はパッケージに書かれていない
ペットフード安全法で表示が義務づけられているのは、名称・原材料名・賞味期限・事業者名・原産国名の5項目です。ヨウ素の含有量に表示義務はありません。つまり、店頭でパッケージを見比べても、ヨウ素は分からないのです。
そこで編集部は2026年8月、市販のプレミアムキャットフード5商品について、各社の公式サイトを調べました。
確認したのは、ヨウ素含有量を数値で公表しているかどうかと、原材料表示に海藻類(海藻・ケルプ・昆布・海藻粉末)の記載があるかどうかの2点です。海藻類はヨウ素源として配合される食材で、後述のとおり、メーカー自身が海藻を「ヨウ素が豊富」と説明している例もあります。
結果|ヨウ素量を公表していたのは1商品だけ
| 商品 | ヨウ素量の公表 | 原材料の海藻類 | 確認先 |
|---|---|---|---|
| 犬猫生活キャットフード | あり(0.7mg/100g)※ロットにより変動と注記 | あり(海藻粉末) | 公式成分ページ・商品ページ |
| モグニャン | なし(ミネラル類としてヨウ素を含む記載のみ) | なし(原材料全文で確認) | 公式商品ページ |
| GRANDS(グランツ) | なし(ミネラル類としてヨウ素を含む記載のみ) | なし(原材料全文で確認) | 公式商品ページ |
| カナガンキャットフード チキン | なし | あり(海藻。公式サイトは海藻を「ヨウ素やミネラルが豊富」と説明) | 公式商品ページ |
| オリジン オリジナルキャット | なし | あり(乾燥ケルプ) | 公式商品ページ |
「低ヨウ素の市販フード」は確認できませんでした
唯一数値を公表していた犬猫生活のヨウ素は、0.7mg/100g、製品重量あたりに直すと7mg/kgです。y/dの0.2mg/kg(乾物ベース)とは測定の基準が異なるため厳密な比較には注意が必要ですが、その点を踏まえても数十倍の開きがあります。米国調査の中央値3.5mg/kg(乾物)と比べても高めの水準です。
調査結果を整理します。低ヨウ素と確認できる市販フードは、今回の調査では1つもありませんでした。ヨウ素を療法食の水準まで制限したいなら選択肢は療法食しかなく、そこは獣医師との相談になります。それでも市販フードを選ぶなら、何が確認できるかの多さで選ぶしかありません。
数値が分かるのは犬猫生活だけ。海藻類を使っていないと確認できたのは、モグニャンとGRANDS(チキン&サーモン味)の2商品でした。この「確認できること」を軸に、後半で各商品を紹介します。
甲状腺機能亢進症の猫の市販フードの選び方|「確認できること」で選ぶ

①ヨウ素量を公表しているかを、まず見る
前述のとおりヨウ素には表示義務がなく、ほとんどのメーカーは公表していません。数値を公表している商品なら、その数値を獣医師に伝えたうえで、与えてよいかどうかを相談できます。市販フード選びでできることの中では、これがいちばん確実です。公表がない場合は、メーカーに問い合わせるという方法もあります。
②原材料表示で海藻類(ケルプ・昆布・海藻粉末)を確認する
海藻類は、キャットフードにヨウ素やミネラルの供給源として配合される食材です。カナガンの公式サイトも、配合している海藻について「ヨウ素やミネラルが豊富」と自ら説明しています。ヨウ素の摂取量に配慮したい状況では、原材料表示に海藻・ケルプ・昆布・海藻粉末の記載がないかを確認しましょう。数値の公表がなくても、パッケージさえあれば誰でも確認できるポイントです。
③「魚が入っているか」だけでは判断できない
魚系のフードはヨウ素が多いから避けるべきだ、という説明を見かけます。ところが米国の112銘柄実測調査では、魚原料を含むフードと含まないフードの間に、ヨウ素濃度の統計的な有意差はありませんでした。ヨウ素は魚由来だけでなく、添加ミネラル(ヨウ化カリウム・ヨウ素酸カルシウムなど)や海藻からも入るためです。
魚の有無は好みや嗜好性の問題として見て、ヨウ素の観点では①と②を優先する方が、実測データに沿った選び方といえます。
④体重が落ちやすい病気だからこそ、栄養方針は獣医師と決める
甲状腺機能亢進症の猫は代謝が亢進し、体重や筋肉量が落ちやすいことが知られています。だからといって、高タンパク・高カロリーのフードを選べばよいと単純には言えません。後述のとおり、腎臓病を併発している場合はたんぱく質を制限する方向の食事が優先されることがあり、方針が正反対になるからです。
たんぱく質やカロリーをどうするかは、血液検査の結果を見ながら獣医師と決める領域です。
編集部調査を踏まえた市販キャットフードの紹介
ここからは、調査で確認できたことが多い順に紹介します。念のため繰り返します。どの商品も低ヨウ素ではありません。療法食が指示されている場合は、自己判断で切り替えないでください。
犬猫生活キャットフード|ヨウ素量を公表している唯一の商品

| 価格 | 初回おためし980円(税込)、定期5,808円(税込)※2026年8月時点・公式サイト |
|---|---|
| 内容量 | 1.5kg(750g×2袋)※初回おためしは少量パック |
| 主原料 | 生肉(鶏肉・牛肉・鶏レバー)、大麦、玄米(チキン味) |
| ヨウ素 | 0.7mg/100g(公式公表値。ロットにより変動あり) |
犬猫生活キャットフードは、今回調べた5商品のうち、ヨウ素を含む詳細な栄養成分の数値を公式サイトで公表している唯一の商品です。原材料には海藻粉末が使われており、その事実も含めてすべて開示されています。
正直に書くと、公表値の0.7mg/100g(=7mg/kg)は低ヨウ素と呼べる水準ではありません。それでも最初に紹介するのは、数値が分かるフードだからです。
獣医師に、このフードのヨウ素は0.7mg/100gですと伝えて相談できます。今回の調査では、それができる唯一の市販フードでした。分からないものを選ぶより、分かるものを選んで相談する方が、判断の質は上がります。
向いているのは、数値を獣医師と共有しながらフードを決めたい飼い主さんです。反対に、ヨウ素をできるだけ抑えるよう指示が出ている場合には向きません。その場合は療法食を、獣医師と相談してください。
モグニャンキャットフード|海藻類を使っていないことが原材料から確認できる

| 価格 | 通常5,852円(税込)※2026年7月時点・公式サイト |
|---|---|
| 内容量 | 1.5kg |
| 主原料 | 白身魚65%、タピオカ、ジャガイモ |
| ヨウ素 | 数値の公表なし(ミネラル類としてヨウ素を含む) |
モグニャンキャットフードの公式サイトの原材料全文を確認したところ、今回調べた中で、海藻・ケルプ・昆布・海藻粉末のいずれも使われていない商品でした。ヨウ素は総合栄養食として必要な栄養素のため、ミネラル類として配合されていますが、数値は公表されていません。
主原料は白身魚65%です。魚だから避けるべきでは、と考える方もいるかもしれません。ただ前述のとおり、実測調査では魚の有無とヨウ素量に統計的な差は確認されていません。このフードが愛猫に適するかどうかは、ヨウ素の数値が非公表である以上、獣医師に確認のうえ判断してください。
向いているのは、原材料の中身、つまり海藻類の不使用を確認して選びたい飼い主さんや、魚の風味を好む猫です。数値で判断したい場合は、公表がないため向きません。
GRANDS(グランツ)|海藻類の不使用が確認できた。小分けで試しやすい

| 価格 | 初回980円、通常5,461円(500g×3袋・送料込)※2026年7月時点・公式サイト |
|---|---|
| 内容量 | 1.5kg(500g×3袋) |
| 主原料 | チキン&サーモン65%以上(2024年リニューアル後) |
| ヨウ素 | 数値の公表なし(ミネラル類としてヨウ素を含む)。海藻類は不使用 |
グランツは2024年のリニューアルで、リン0.9%・ナトリウム0.4%に調整されたことが公式に告知されています。公式サイトの原料・成分一覧を確認したところ、チキン&サーモン味の原材料に海藻・ケルプ・昆布・海藻粉末の記載はありませんでした。ヨウ素はミネラル類として配合されていますが、数値は公表されていません。
なお、定期便の2回目以降は3つの味のセットでのお届けです。チキン味とサーモン味には藻類のスピルリナが使われています(海藻類の記載は3味ともありません)。気になる場合は獣医師に確認してください。
500g×3袋の小分けタイプで、初回980円から試せるのが特徴です。まずは食べてくれるかどうかだけ少量で確かめたい、という場合には試しやすい設定といえます。
向いているのは、まず少量・低価格で食いつきを確かめたい飼い主さんです。数値で判断したい場合は、ヨウ素量の公表がないため向きません。
参考|今回、個別の紹介を見送った商品について
カナガンキャットフード チキンとオリジン オリジナルキャットは、原材料に海藻類(カナガンは海藻、オリジンは乾燥ケルプ)が確認できたため、ヨウ素への配慮をテーマとする本記事では個別の紹介を見送りました。これは商品そのものの品質評価ではありません。原材料の事実と本記事のテーマとの整合だけを基準にした判断です。それぞれの詳細は、各公式サイトでご確認ください。
甲状腺機能亢進症の猫が食べてはいけないもの・注意したいもの
海藻類・昆布だし
海藻類(昆布・わかめ・ひじき・ケルプなど)は、キャットフードでもヨウ素の供給源として配合される食材です。手作りのトッピングや昆布だしとして与えれば、フード以外の経路でヨウ素を足すことになります。ヨウ素の管理をしている猫には避けるのが無難です。
【y/dで管理中の場合】おやつ・他のペットのフード・味のついた薬すべて
ヒルズ公式は、y/dによる食事管理中、おやつや同居ペットのフード、味のついた薬などからのヨウ素摂取が低ヨウ素設計の効果を損なうため、y/dのみを与えるよう明記しています。魚系か肉系かを選ぶ以前に、y/d管理中はおやつ全般が治療の妨げになりうるというのが公式の立場です。同居猫がいる家庭では、フードの置き場所の管理も含めて獣医師に相談してください。
大豆を含むフード・食材
米国猫医学会(AAFP)のガイドラインは、大豆イソフラボンが甲状腺に影響しうる物質(ゴイトロゲン)として研究されていることに触れ、猫はもともと大豆を必要としないため、大豆イソフラボンを含むフードを避けるのは合理的だとしています。これは主に病気の発症リスクをめぐる文脈での言及ですが、原材料表示で大豆の有無を確認する習慣は持っておいて損がありません。
なお、ブロッコリーやキャベツなどの野菜について、甲状腺機能亢進症の猫に避けるべきとする獣医学の一次情報は、編集部の調査では確認できませんでした。
人間の食べ物・味付けした食品
塩分の高い加工食品や味付けした料理は、病気の有無にかかわらず猫には不適切です。甲状腺機能亢進症の猫は高血圧や心臓・腎臓への負担が問題になりやすいため、なおさら避けてください。ネギ類やチョコレートなど、猫に中毒を起こす食材は当然ながら厳禁です。
ちゅ〜る・おやつ・投薬用のちゅ〜るはどうする?
まず、自分がどちらのケースかを確認
おやつの可否は、管理の方法によって答えが変わります。
y/d(ヨウ素制限食)で管理しているなら、前述のとおり、公式はy/dのみを与えるよう明記しています。魚系か肉系かを問わず、おやつの併用は治療効果を損なうおそれがあります。
投薬治療が中心で食事の制限指示がないなら、おやつを一律に禁止する根拠はありません。ただし種類と量は、獣医師に確認するのが確実です。
薬を飲ませるためのちゅ〜る(ちゅ〜るポケットなど)は?
抗甲状腺薬の投薬補助として、ちゅ〜るやちゅ〜るポケットのような投薬用おやつを使っている家庭もあります。ここで知っておきたいのは、ヒルズ公式が、味のついた薬(flavored medicines)もヨウ素摂取の経路になりうると明記していることです。y/dで管理しながら投薬もしている場合は、投薬補助に何を使ってよいかを必ず獣医師に確認してください。投薬中心の管理であれば、使用の可否と量を診察時に相談しましょう。
おやつの原材料表示は、どこを見ればいい?
おやつ類も、ヨウ素の数値はまず公表されていません。パッケージで確認できるのは原材料です。見るポイントはフードと同じで、海藻類(海藻粉末・昆布など)の記載があるかどうかです。あわせて、魚介が主体か肉が主体かも見ておきましょう。ただし前述のとおり、魚だから多いと断定はできません。原材料の確認は、あくまで獣医師に相談するときの材料と考えてください。
腎臓病を併発している場合|フードの優先順位は獣医師の判断領域
甲状腺機能亢進症は高齢の猫に多く、同じく高齢の猫に多い慢性腎臓病(CKD)との併発が珍しくありません。甲状腺の治療を始めた後に、腎臓の数値の変化が表面化するケースがあることもガイドラインで言及されています。
このとき、食事の方針は綱引きになります。甲状腺の側には、ヨウ素制限食(y/d)という選択肢があります。一方で腎臓の側では、高窒素血症のあるCKD(IRISステージ2〜4)に対して、たんぱく質とリンを制限した腎臓病用療法食が管理の主軸とされ、生存期間の改善が報告されています。
そして査読論文では、両方の病気を持ち高窒素血症がある猫について、腎臓病用療法食の給与をヨウ素制限食よりも優先すべきという考え方が示されています。AAFPのガイドラインも、腎臓病を併発していても甲状腺の治療自体は行うことを推奨し、進行したステージではより慎重な管理を求めています。
どちらのフードを優先するかは、まさに血液検査の数値を見ながら獣医師が判断する領域です。両方の病気のフードを、飼い主の判断で選ばないでください。
腎臓に配慮したフードの一般的な情報は、こちらの記事も参考にしてください。
猫の腎臓に配慮したフードの選び方はこちら
手作り食を考えている場合
手作り食こそ、専門家と一緒に
療法食を食べてくれない猫のために、手作り食を検討する方もいます。ただ、猫に必要な栄養をすべて手作りで満たすのは非常に難しく、栄養の偏りというリスクを抱えます。取り組む場合は、獣医師や動物栄養の専門家とレシピを組み立ててください。
避けたい食材は「食べてはいけないもの」の章と同じ
避けたいのは、海藻類、昆布だし、大豆、そしてネギ類など猫に中毒を起こす食材です。考え方は、前述の食べてはいけないものの章と変わりません。とくにだしの素や昆布だしは、見落としやすいヨウ素の経路です。
療法食と併用する場合の注意
y/dで管理している場合、手作りのトッピングを混ぜること自体が単独給与の原則に反し、効果を損なうおそれがあります。療法食を使っていない場合でも、トッピングの内容と量は獣医師に相談してから決めてください。
フードを切り替えるときに気をつけること
7〜10日を目安に、少しずつ
新しいフードへの切り替えは、今までのフードに少しずつ混ぜながら進めるのが基本です。ヒルズはy/dへの移行に7日以上かけることを案内しており、一般の市販フードでも、メーカー各社が7〜10日程度かけた切り替えを推奨しています。急な全量切り替えは、嘔吐や下痢のもとになります。
食べ方の変化は、記録して獣医師に伝える
甲状腺機能亢進症の猫は食欲が増していることが多く、食べ方や食事量が変わりやすい状態です。切り替え中の食事量、体重、嘔吐の有無をメモしておくと、次の診察での判断材料になります。一気食いによる吐き戻しが気になるときの食事回数の調整も、あわせて獣医師に相談してみてください。
猫の吐き戻しとフードの関係は、こちらの記事で詳しく扱っています。
猫の吐き戻しとフードの記事はこちら
早期発見のためにできること

7歳を過ぎたら、健康診断にT4(甲状腺ホルモン)測定を
AAHA/AAFPのライフステージガイドラインは、7〜10歳(マチュア期)の見た目には健康な猫に対して、T4測定を強く考慮するよう推奨しています。実際に診断されるのは10歳を超えた猫が典型的とされますが、検査を始めるのは症状が出る前からで早すぎることはありません。かかりつけで健康診断を受けるとき、T4も測ってほしいと一言添えてみてください。
シニア期の猫のフード全般については、こちらもどうぞ。
シニア猫のキャットフードの記事はこちら
「ヨウ素は少なければ良い」でもない、という研究上の指摘
意外に思われるかもしれませんが、米国の実測調査を行った研究者らは、フード間やロット間でヨウ素量が大きく変動すること、つまり不足と過剰を行き来すること自体が、この病気の発症に関わっている可能性を仮説として指摘しています。
健康な猫に対して、予防のつもりで極端にヨウ素を避けることが良いとは限らないわけです。診断前の猫のフード選びで悩んだら、この点も含めて獣医師に相談してください。
よくある質問

市販フードは療法食の代わりになりますか?
なりません。今回の調査のとおり、市販フードのヨウ素は療法食と桁が違ううえ、数値を公表していたのは5商品中1商品だけでした。y/dは単独給与を前提に効果が示されているフードです。療法食を続けられない場合は、市販フードに戻す前に獣医師へ相談してください。
フードを変えたら、どのくらいで変化が見られますか?
y/dについては、単独給与を続けた場合に3週間でT4産生の低下が示されたと公式に記載されています。一方、一般の市販フードに切り替えた場合の甲状腺ホルモンへの影響を確認したデータはありません。変化は見た目ではなく血液検査で確認するものです。切り替え後の再検査のタイミングを、獣医師と決めておきましょう。
ドライとウェット、どちらがいいですか?
この病気の観点から、一概にどちらが良いとは言えません。y/dにはドライと缶があり、併用も可能とされています。参考までに、米国の実測調査では缶詰(ウェット)はヨウ素量の変動が最も大きく、疫学研究では缶詰中心の食生活が発症リスク要因の一つとして繰り返し報告されています(原因の特定には至っていません)。ウェットフード全般の選び方は、こちらの記事をどうぞ。
キャットフードのウェットタイプの記事はこちら
何をあげればいいか、分からなくなってしまいました
迷ったときにいちばん避けたいのは、情報を集めるほど不安になって、フードを次々に変えてしまうことです。急な切り替えの方が、猫の負担になります。現状のフードを続けながら、この記事の比較表(市販5商品の確認結果)を持って、次の診察で獣医師に相談してください。
まとめ|「分からないまま選ぶ」のをやめることが、いちばんの対策
甲状腺機能亢進症の食事管理用の療法食は、編集部が確認できた範囲で国内はヒルズy/dのみでした。その効果は単独給与が前提です。
一方の市販フードは、ヨウ素に表示義務がなく、数値を公表していたのは5商品中1商品、犬猫生活の0.7mg/100gだけでした。低ヨウ素と確認できる市販フードは存在しなかった、というのが調査の結論です。
それでも市販で選ぶなら、頼れるのは数値の開示と海藻類の有無という、確認できることの多さです。魚の有無だけではヨウ素を判断できないことも、実測調査が示しています。腎臓病を併発している場合は腎臓病用療法食が優先されることがあり、フードの優先順位は獣医師の判断領域です。そして7歳を過ぎたら、健康診断でのT4測定を忘れずに。
最後に、この病気は、投薬・手術・放射性ヨウ素・食事療法を組み合わせて管理していく病気で、フード選びはその一部にすぎません。心配なことがあったら迷わず獣医師に相談してくださいね。
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ワンニャンBEST編集部 |
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参考文献・出典
本記事の数値・医学的な記述は、以下の情報源にもとづいています(とくに記載のないものは2026年8月14日閲覧)。
- Hill’s Pet Nutrition(米国公式)y/d Chicken Flavor Dry Cat Food 製品ページ(成分表示・給与上の注意)
- Hill’s Pet Nutrition(米国公式)y/d with Chicken Wet Cat Food 製品ページ
- ロイヤルカナン日本公式 猫用食事療法食一覧
- Edinboro CH, et al. Iodine concentration in commercial cat foods from three regions of the USA, 2008–2009. Journal of Feline Medicine and Surgery. 2013;15(8):717-724.
- 2016 AAFP Guidelines for the Management of Feline Hyperthyroidism. Journal of Feline Medicine and Surgery.
- 2021 AAHA/AAFP Feline Life Stage Guidelines(ライフステージ別の診断検査)
- Geddes R, et al.(甲状腺機能亢進症と慢性腎臓病の併発管理に関する総説・査読論文)
- 環境省 ペットフード安全法 基準・規格(表示義務項目)
- 犬猫生活キャットフード 栄養成分詳細(公式)
- 犬猫生活キャットフード 商品ページ(原材料表示・価格)
- モグニャンキャットフード 公式商品ページ(原材料表示)
- カナガンキャットフード チキン 公式商品ページ(原材料表示・海藻の説明)
- オリジン オリジナルキャット 公式商品ページ(原材料表示)
- GRANDS 公式サイト リニューアルのお知らせ(成分調整の告知)
- 2023 AAHA Selected Endocrinopathies of Dogs and Cats Guidelines(Feline Hyperthyroidism)
- GRANDS 公式サイト 商品ページ(チキン&サーモン味の原料・成分一覧)※2026年8月16日閲覧
2026年8月16日 全面改訂。市販5商品のヨウ素量の公表状況と海藻類の使用を編集部で確認し、調査結果の比較表を追加。ブロッコリー・キャベツ等のゴイトロゲンに関する記述と「高タンパク・高カロリーのフードを選ぶ」という記述を、根拠が確認できなかったため削除(大豆については出典付きで記載)。腎臓病を併発した場合の章と、投薬用ちゅ〜るの扱いを追加。掲載商品を8点から3点に変更。参考文献16本を記事末に明記。GRANDSの原材料・成分を公式サイトで確認し、調査表と紹介文を更新。
2026年2月26日 公開
価格の取得日 2026年8月14日(犬猫生活)/2026年7月17日(モグニャン・GRANDS)
※価格・仕様は変更される場合があります。最新情報は各公式サイトでご確認ください。

ワンニャンBEST編集部

